テレビや各種メディアでよく目にするようになった「空き家問題」。
住人を失って廃屋と化した建物を見たことはありませんか。
建物だけではなく、土地も同じです。
所有者不明土地解消のために改正された民法等がいよいよ施行されました!
一体どんな制度なのでしょう?
どんなことに気を付ければいいのでしょう?
「相続登記義務化」と聞いても何をどうすればいいのやら・・・
今回は、そんな疑問に徹底的に答えていきます。
相続登記ってどんなこと?
「相続登記」とは、相続又は遺贈によって不動産を取得した場合に、所有者の名義を亡くなった人(被相続人)から取得した人(相続人)に変更する登記手続きを指します。
不動産を売買で取得した際、売主から買主へ名義を変更するのが原則ですが、実は不動産の登記自体は義務ではありません。これには驚く人も多くいることでしょう。
不動産登記は「対抗要件」に過ぎず、登記するもしないも当事者の自由です。ただし、登記をしなかった場合、第三者に対して、例えば自分が所有者であること等を主張することができません。
その為、売買の際は司法書士が立ち会って、売主から買主への所有権移転登記をすることがほとんどです。
これに対し、相続時は、親族間で名義が移ることが多く、放っておいても登記上他人に迷惑をかけることもなく、知らない人に勝手に使われてしまうリスクも低いです。
相続した親族がそのまま住み続けるケースだと、特に名義変更の必要性を感じる場面がないかもしれません。
相続物件の名義変更をしていなくても、役所は相続人に「固定資産税納付書」を送付しますし、納税していれば不動産を差し押さえられることもありません。
どうして登記が必要なの?
では、どうして相続登記が必要になるのでしょうか。
結論から言うと、相続発生時に登記をきちんとしておかないと、所有者を特定することがとても困難になるからです。
相続は、人が亡くなった時に発生します。それと同時に、亡くなった人が持っていた財産は相続人の共有財産(相続財産)となります。
遺言書や遺産分割協議によって相続人のうち誰がどの財産を引き継ぐかが決まると、遺産承継のための各種手続きに着手します。
これが一般的な流れですが、場合によっては、相続人の中に連絡の取れない人がいる、分割内容が折り合わない等の理由で協議が進まないこともあります。
中には、相続財産である不動産を誰も取得したがらないケースも当然あり得ます。
不動産を取得することが必ずしもプラスになるとは限らないからです。
こういった状況で、承継する人が決まらずに放置された不動産は、一体誰の所有物件になるのでしょうか。
登記簿上は、被相続人(亡くなった人)名義のままです。しかし、実際は相続人の共有ということになっています。実質的な所有者を調べようとすると、被相続人の戸籍を全部収集して相続人を確定する作業が必要になります。
何十年も放置されていると、相続人のうち誰かが亡くなることもあります。この状態を二次相続と言います。
そうすると、相続人だった人の相続人がさらに所有者に加わることになります。
三次、四次と数次相続が進めばその分所有者は倍増する訳です。
所有者を特定することがとても困難であることが容易に想像できますね。
ここまでの説明で、相続登記の重要性が見えてきたのではないでしょうか。
このように、相続時に不動産登記手続きを適切に行わず、所有者を特定することが困難になってしまった土地がたくさんあるのです。
義務化される背景
現在、日本国内で所有者不明土地がどれくらいあるか知っていますか?
所有者不明土地とは、相続登記がされないこと等により、
・不動産登記簿を参照しても、所有者が直ちに判明しない
・所有者が判明しても、所有者に連絡がつかない
上記の状態になっている土地を指します。
【国土交通省 所有者不明土地ガイドブックより】
日本全国で、実に410万haの土地がいわゆる「所有者不明土地」になっており、九州よりも広い面積が誰の所有か判明していない状態と言われています。
国土交通省の調査によれば、その割合は日本の国土の24%にもなります。さらに所有者不明土地のうち62%が相続登記未了、34%が住所変更登記未了を原因としています。
この状態が続くと、様々な問題が生じます。例えば、公共事業や復興事業が円滑に進まなかったり、空き家や空き地が放置されることで近隣への迷惑になることが考えられます。
そこで、民法等が一部改正されることになりました。
相続時の名義変更登記を義務化することで、この問題の解決の一策にしようとした訳です。
もちろん、所有者不明土地解消のための制度見直しは相続登記の義務化だけではありません。
いつから義務化される?
さて、相続登記の必要性と義務化の背景がわかったところで本題に入ります。
相続登記はいつから義務化されるのでしょうか。
(相続等による所有権の移転の登記の申請)
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
【不動産登記法 第76条の2 第1項】
相続登記義務化関係の改正法は令和6年4月1日に施行されました。
4月1日以降、相続により不動産の取得を知った相続人は、3年以内に登記をしなければなりません。基準日が「相続が発生した日」ではなく「相続開始を知り、かつ、不動産の取得を知った日」であることに注目してください。
被相続人の全財産につき正確に把握している場合は、相続開始と同時に不動産の取得を知ることになります。しかし、財産が明確になっていない場合は、時を経て判明することもあり得ます。
被相続人が所有する不動産の存在が明らかになった時から3年以内に登記申請すれば足ります。
また、令和6年3月31日以前に発生した相続についても当然義務化の対象となります。
この場合、不動産を取得したことを知っていれば4月1日から3年以内の登記申請が義務付けられます。
名義変更はしていないけど、固定資産税だけ支払っているような不動産がありませんか?
この機会に、相続登記が完了しているかを登記簿で確認してみてください。未了の不動産がある場合、又は、手続きが完了しているか不明な場合は、お近くの司法書士へ相談することをお勧めします。
ちなみに、所有権登記名義人の住所・氏名(法人の場合は、本店・商号)変更登記の義務化は令和8年4月1日に施行されます。
引っ越しをした、婚姻等で氏名が変わっている、本店移転や商号変更があった場合、施行日又は変更日のいずれか遅い日から2年以内の申請が義務付けられます。
(所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記の申請)
所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から二年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。
【不動産登記法 第76条の5】
住所変更登記等の義務化とともに、職権による登記制度も導入されます。
改正法施行後は、住所・氏名のほか、任意で「検索用情報」を提供することで法務局が定期的に住基ネットを照会できるようになります。
(職権による氏名等の変更の登記)
登記官は、所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記をすることができる。ただし、当該所有権の登記名義人が自然人であるときは、その申出があるときに限る。
【不動産登記法 第76条の6】
申請する義務があるのは誰?
不動産登記法第76条の2では、「相続により所有権を取得した者は、(中略)所有権の移転の登記を申請しなければならない」と規定されています。
通常、相続発生時には誰がどの財産を引き継ぐかを相続人の間で話し合って(遺産分割協議で)決定します。何らかの事情でこの協議ができないと、いつまでも不動産を誰が引き継ぐのか決めることができません。
義務が課されるのは、「不動産の所有権を取得した者」です。
つまり、相続財産に不動産があったとしても、それを引き継がない人には当然登記申請の義務はありません。
しかし、遺産分割協議で特定の相続人が引き継ぐことが決まるまでの間、その不動産は相続人全員の共有の状態です。
3年以内に協議がまとまらない場合は、相続人全員が登記申請の義務を負うことになります。
法定相続分(相続人全員の共有)で登記する方法もありますが、法定相続人の範囲や割合の確定が必要になり手続きの負担が大きいのが現状です。
そこで、改正法では、相続人が申請義務を簡易に履行することができるようにする観点から、「相続人申告登記」という新たな制度が導入されます。
相続人申告登記の詳細は別記事で紹介していますので、ここでは簡単に触れておきます。
相続人申告登記は、法的には不動産が相続人全員の共有になっている状態においても、相続人の一人が単独で申し出ることが可能です。
申出を受けて登記官(法務局)が職権で登記します。
法務局(登記官)に申し出ることでその相続人は申請義務を履行したものとみなされます。
(相続人である旨の申出等)
前条第一項の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる。
2 前条第一項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第一項に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。
【不動産登記法 第76条の3第1項、第2項】
誰が不動産を引き継ぐことになるのか長期間決めることができない状態であっても、この申し出をすることで罰則の対象にはなりません。
相続人は登記申請より簡易な手続きで申請義務を履行でき、登記簿を確認することで相続人の所在を把握することが容易になるという制度です。
罰則はある?
今回の法改正により、相続登記が義務化され罰則規定も追加されています。
(過料)
(中略)第七十六条の二第一項(中略)の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。
【不動産登記法 第164条】
正当な理由なく、相続登記をしなかった場合は、10万円以下の過料が科せられます。
過料とは、法令に違反した場合の制裁として科せられる行政上の罰です。罰金(刑事罰)とは異なります。
相続登記の申請義務違反があったとしても、直ちに過料が科される訳ではなく、まずは申請義務者に対し催告を実施し、それでもなお、正当な理由なく申請をしなかった場合に裁判所へ通知されることになっています。
さらに、裁判所でも要件に該当するかどうかを判断してから、科されます。
では、「正当な理由」とはどんなことでしょう。
明示されている類型は以下のとおりです。
- 数次相続で相続人が極めて多数、かつ、戸籍等の収集や相続人の把握に多大な時間を要する
- 遺言の有効性を争っている
- 重病等である
- DV被害者等である
- 経済的に困窮している
その他の個別事情についても登記官が確認して判断します。
正当な理由の有無はともかく、もし、法務局から登記申請をするよう催告を受けた場合は、速やかに対応するようにしましょう。手続きに迷ったり困ったりする場合は、司法書士へご相談ください。
手続きはどうしたらいい?
これまで説明したとおり、相続登記をするためにはいくつかのハードルを越える必要があります。
- 被相続人の一生涯分の戸籍を収集する
- 戸籍を読み解き、誰が相続人かを確定する
- 相続人全員で協議し、相続財産(遺産)の分配方法を決定する
- 不動産を取得する相続人が必要書類を揃えて管轄法務局へ登記申請する
遺産分割協議の内容は必ず書面に記しましょう。この書面を「遺産分割協議書」といい、各種相続手続きで度々使うことになります。記載内容に少しでも不備があると手続きには使えなくなりますので、正確に要件を満たす必要があります。
また、署名した相続人全員の印鑑証明書を添付しておきます。押印は当然、全相続人実印です。
遺産分割協議書ができてもそれだけでは登記申請することはできません。
法務局に提出する登記必要書類は他にもあります。遺産分割協議書は相続登記の「登記原因証明情報」となります。
その他、戸籍類や住民票も必要になります。
被相続人の一生涯分の戸籍及び相続人全員の現在戸籍、不動産を取得する相続人の住民票に代えて「法定相続情報一覧図」を提出してもかまいません。一覧図を取得しておくと戸籍の提出が不要になり、その他の相続手続きでも利用することが可能です。
必要書類を集めたら、登記申請書を作成しましょう。申請書のひな形は法務局の公式サイトからダウンロード可能です。
17)~22)から該当する様式を使います。
- 記載例を参考に、必要事項を記入します。
- 「登録免許税」を計算します。免許税額分の収入印紙を貼付します。
- 還付を希望する資料はコピーを取っておきます。
- 提出する資料を全て一つに綴ります(ホチキス留めします)。綴り目に契印します。
- 管轄法務局宛に郵送します。持参しても構いません。
登録免許税は、固定資産税評価額を基準に計算します。評価額がわからない場合は、不動産所在地の役所で「評価額証明書」を取り寄せて確認します。
登録免許税の計算については、法務局に詳しい説明がありますので参照してください。
もっとも一般的な「遺産分割協議」を経て不動産を特定の相続人が相続した場合の手続きを紹介しました。その他、法定相続分で登記する、遺言書の内容に従って登記する、相続人以外の人が登記するなど様々なケースがあります。
いずれにしても、不動産を取得することが決まったら速やかに登記申請手続きを進めましょう。
さて、既に解説済ですが、遺産に不動産が含まれている場合、所有権移転登記申請を3年以内にすることが不動産を取得する相続人の義務となります。
遺言があったり、遺産分割協議がまとまったり、不動産を取得する相続人がすんなり決定する場合は、手続きを進めることができますが、そうでない場合、どうしたらいいのでしょう。
自分は相続人として、不動産を取得することになるなら登記申請をするつもりでいるにも関わらず、協議が何らかの事情で進められないために、期限を過ぎてしまいそうな場合、何か打てる手はないのでしょうか。
そんな時は、「相続人申告登記」をしておくとよいでしょう。
「相続が開始した旨」と「自分が相続人である旨」を申し出ることで申請義務を履行したものとみなされます。これで罰則の対象にはなりません。ただし、法務局(登記情報)には所有者として記録が残りますので、納税義務や管理義務が発生する点に注意が必要です。
不動産の名義変更登記は司法書士の得意とする業務です。
相続人の確定から、登記申請まで全てを行うことができます。
自分で進めることに不安がある、時間が取れない、面倒くさいと感じたら、お近くの司法書士へご相談ください。
よくある質問
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相続登記をしないとどうなりますか?
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被相続人が不動産を所有していた場合、例え名義を変更する登記をしていなくても、法律的には相続人全員の共有状態となります。各相続人には登記申請の義務がありますので、その義務を履行していない状態(怠っている状態)となります。
法務局から登記をするよう催告を受けたにも関わらず、さらに登記をせずに放置した場合は、10万円以下の過料に処せられる可能性があります。
過料が科せられなかったとしても、時間が経てば相続手続きは格段に複雑になっていきます。お手続きはお早めに、お近くの司法書士へご相談ください。
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相続放棄をしましたが、相続人として登記申請の義務はありますか?
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家庭裁判所に相続放棄の申述をし、受理されていれば「相続人ではなかった」ことになりますので、登記申請の義務はありません。
※遺産分割協議で財産を受け取らないことにしただけでは、相続放棄したことになりませんので、ご注意ください。
遺産分割協議で不動産を引き継がないことになった相続人は、登記申請の義務はありません。
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令和6年4月1日より前に発生した相続についても義務化の対象になりますか?
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過去の相続も義務化の対象になります。
何年も放置してある不動産はありませんか?
これを機に、相続登記未了物件がないか確認してみるのはいかがでしょうか。
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相続登記をするための費用を教えてください。
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対象不動産の評価額に対して、0.4%の登録免許税がかかります(減免もあります)。
その他、戸籍や住民票、印鑑証明などの取得費用も必ず掛かる費用です。手続きを司法書士に依頼する場合は、別途報酬が発生します。
まとめ
年々深刻度を増す所有者不明土地問題解決のための法改正について解説しました。
- 相続登記の義務化は令和6年4月1日から施行
- 相続により不動産を取得したことを知った時から3年以内に登記申請することが義務化
- 正当な理由なく申請義務を怠ると10万円以下の過料の罰則
以上が大きなポイントです。
付随して他の改正点についても触れていますが、詳細は別記事でも紹介していますので、併せて読んでみてください。
不動産の名義変更の機会は滅多に訪れるものではありません。だからこそ、慣れるということもない手続きです。不慣れな手続きに時間と労力を費やす前に、お近くの専門家にぜひ相談してみてください。
不動産登記の専門家は「司法書士」です。
千葉県内で司法書士をお探しでしたら、お気軽にお問い合わせください。
※相続する不動産は全国どこの物件でも対応可能です。