親族が亡くなり、被相続人の相続財産を受け継ぐこととなった場合、各種の手続きが必要になります。ひとことに「相続手続き」といっても、相続財産によって各種の手続きがあります。
では、これらの手続きを行う際に、どのような書類をそろえる必要があるのでしょうか。
本記事では、一般的な相続手続きに必要となる、各種書類の収集について、詳しく解説します。
これから相続手続きを開始する人は、参考にしてみてください。
亡くなるとどんな手続きが必要?
誰かが亡くなった際に、どのような手続きが必要になるのでしょうか。 以下に、一般的な各手続きを示します。
手続き | 相手方 |
---|---|
死亡診断書の取得 | 病院(医師) |
死亡届の提出 | 市区町村役場 |
火葬許可証と死体埋葬許可証の取得 | 市区町村役場 |
年金受給権者死亡届(報告書)の提出 | 日本年金機構 |
介護保険被保険者証の返却 | 市区町村役場 |
介護保険の資格喪失届の提出 | 市区町村役場 |
世帯主の変更届 | 市区町村役場 |
住民票の抹消届 | 市区町村役場 |
国民健康保険被保険者証の返却 | 市区町村役場 |
埋葬費等の申請 | 健康保険組合 / 社会保険事務所 |
金融機関の口座凍結の連絡 | 各金融機関窓口 |
公共料金等の名義変更、解約、返却手続 | 各契約先 |
生命保険金の請求 | 保険会社 |
遺族年金の手続 | 市区町村役場 / 都道府県年金事務所 |
遺言書の有無の調査、検認 | 管轄法務局 / 管轄家庭裁判所 |
相続人調査 | |
故人の財産調査 | |
遺産分割協議の開始 | |
遺産分割協議書の作成 | |
預貯金の解約 | 金融機関 |
不動産の名義変更 | 法務局 |
準確定申告 | 税務署 |
限定承認 | 家庭裁判所(限定承認の申述) |
相続放棄 | 家庭裁判所(相続放棄の申述) |
相続税の申告・納税 | 税務署 |
相続において、被相続人の相続財産により、必要となる手続きも異なります。
預貯金口座がある場合は、口座を開設している銀行支店にて、口座の解約手続きが必要となり、被相続人が不動産を所有していた場合には、法務局にて不動産の名義変更手続きをとらなければなりません。 財産の状況によっては、相続放棄のための手続きを検討する必要があります。
手続きにおける必要書類
一般的に相続の各種手続きは、書類審査となるため、書面にて相続関係を証明しなければなりません。
この証明に必要となる書類に、戸籍謄本、住民票といった公的な書類があります。
被相続人については、出生から死亡までのすべての戸籍謄本が必要であり、生前に何度も転籍されている場合には、戸籍謄本の収集に一苦労することもあります。 さらに、相続財産の分割については、遺言書や遺産分割協議書により第三者に証明することとなります。
被相続人 | ・生涯(一生分)の戸籍謄本 ※出生から死亡まで ・住民票の除票 | 生前に本籍地を移している場合(転籍)には 全ての本籍地から 空白期間がないよう取得しなければならない。 |
相続人 | ・戸籍謄本 ・住民票 ・遺言書もしくは遺産分割協議書 ・印鑑登録証明書 |
戸籍とは?
戸籍とは、日本国民が出生してから死亡するまでの身分関係事項(出生、婚姻、死亡、親族関係等)を登録し、公に証明することができる公簿(戸籍簿)です。
戸籍は、戸籍法に基づき届出により記録され、本籍地の市区町村役場において保管されます。
戸籍には、「本籍」、「筆頭者」、同じ戸籍に記録されている人の「氏名」、「生年月日」、「父・母の氏名」、「出生地」、「婚姻日」などが記録されています。
本籍とは、戸籍の所在地をいい、その所在地の地番、または、住居表示の街区番号までの表示となり、住所地とは異なるものです。 戸籍謄本とは、戸籍簿に記録されている全員の身分関係(出生、婚姻、死亡、親族関係等)について証明する戸籍簿の写しをいいます。
戸籍謄本の種類
戸籍の原本は、本籍地の市区町村に保管され、現在の戸籍は、夫婦とその未婚の子(姓を同じくする子)までをひとつの単位として編成されます。
戸籍にはいくつかの種類があり、証明の内容が異なります。
戸籍証明の種類について
証明書の種類 | 証明書の内容 |
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戸籍謄本(全部事項証明) | 戸籍に記載された人全員分の身分事項を記載したもの |
戸籍抄本(個人事項証明) | 戸籍に記載された人のうち、必要とする人のみの 身分事項を記載したもの |
除籍謄本(全部事項証明) | 婚姻・転籍・死亡などにより全員が除籍となった戸籍で、 全員の身分事項が記載されたもの |
除籍抄本(個人事項証明) | 婚姻・転籍・死亡などにより全員が除籍となった戸籍のうち、 必要とする人のみの身分事項が記載されたもの |
改製原戸籍謄本 | 戸籍が改製された場合における改製前の戸籍で、 全員分の身分事項が記載されたもの |
改製原戸籍抄本 | 戸籍が改製された場合における改製前の戸籍で、 必要とする人のみの身分事項が記載されたもの |
戸籍の附票の写し(全部証明) | 戸籍内に記載された全員分の在籍中における 住所の異動履歴が記載されたもの |
戸籍の附票の写し(一部証明) | 戸籍内に記載された必要とする人のみの 在籍中における住所の異動履歴が記載されたもの |
改製原附票 | 改製によって使われなくなった古い様式の附票 |
戸籍の附票の除票(戸籍の除附票) | 婚姻・転籍・死亡などにより全員が除籍となった戸籍の附票 |
不在籍証明 | 申請された氏名・本籍と一致する戸籍・除籍・改製原戸籍が 存在しないことを証明するもの |
身分証明書 | 本籍地のある市区町村で発行される、禁治産・準禁治産、 成年後見の有無、破産の有無を証明するもの |
手続きによって、どの戸籍謄本が必要なのか、事前にしっかりと確認して準備しましょう。
謄本と抄本の違いって何?
戸籍には、謄本と抄本があります。 謄本とは、その戸籍に記載されている人全員の身分事項の証明書であり、抄本は、その戸籍に記載される人のうち、一部の人の身分事項の証明書です。
謄本 | 戸籍に記載されている人全員の身分事項の証明書 |
抄本 | 戸籍に記載される人のうち、一部の人の身分事項の証明書 |
相続手続きでは、相続人の関係(相続関係)を証明しなければならないため、通常は「戸籍謄本」を用います。
「戸籍抄本」では、一部の人の身分事項の証明にしかならず、相続関係を確認することが出来ない場合もあります。 相続手続きに用いる戸籍を取得する場合は、しっかりと確認の上、必要な戸籍を取得しましょう。
現在戸籍、除籍、改製原戸籍
相続手続きにおいて、相続関係を証明するために取得する一般的な戸籍謄本には、現在戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本と3種類あります。
(現在戸籍謄本)
現在の本籍地にて取得することが出来る、最新の戸籍謄本です。 被相続人と相続人の続柄(親子関係等)を証明するために必要な書類です。
(除籍謄本)
戸籍上の全ての人が、婚姻や死亡などによって誰も残っていない戸籍を除籍といいます。この誰も残っていない戸籍の証明として発行されるのが除籍謄本です。
(改製原戸籍謄本)
明治5年に戸籍法が施行され、これまでに5回、戸籍法の改正に伴い戸籍の様式が変更されてきました。様式の変更の際に、新しい様式の戸籍に作り替えられ(改製)、作り替えられる前の戸籍を「改製原戸籍」といいます。この改製原戸籍の写しを改製原戸籍謄本といいます。
戸籍の附票
戸籍が作られて(編成されて)から、現在に至るまでの住所が記録されている証明書です。 手続きによっては、住民票に代えて戸籍の附票で足りることもあります。
取得する戸籍謄本の範囲
相続の各手続きでは、被相続人における法定相続人(相続関係)を証明するため、多くの戸籍謄本を収集する必要があります。
一般的な相続手続きにおいては、次のような戸籍謄本が必要となります。
亡くなった人(被相続人) | 出生から死亡までの戸籍謄本 ※すべての本籍地から空白期間がないよう収集 |
相続人 | 現在の戸籍謄本 |
戸籍謄本の取得方法
戸籍謄本は、本籍のある市区町村役場に請求することで取得できます。 各役場の窓口において直接交付請求することで取得することができます。窓口においての取得が困難な場合でも、いくつかの方法があります。
本人による窓口請求
本籍地のある市区町村役場に直接出向き、窓口にて交付請求を行います。 交付窓口では、所定の交付申請書が用意されているため、必要事項を記載することで交付を受けることができます。
代理人による窓口請求
戸籍の取得(請求)は、代理人でも行うことができます。 代理人が請求する場合は、戸籍の取得をお願いする人(本人)から代理で取得する人(代理人)への委任状が必要になります。
市区町村役場への郵送請求
本籍地が遠隔地の場合や、本籍地の市区町村役場まで出向く時間を取れない場合には、郵送による交付請求をすることができます。窓口での取得に比べ時間と費用を要しますが、市区町村役場へ出向く負担は削減できます。各市区町村役場の指定する交付請求書を記入し、戸籍謄本の交付窓口宛に郵送しましょう。
コンビニでの交付
本籍地の市区町村がコンビニ交付を導入している場合は、マイナンバーカード、もしくは、住民基本台帳カードがあれば、取得することができます。
住民票
住民票は、住民の居住関係を公に証明するもので、住民登録に基づいて発行される証明書です。
相続開始時の住民登録をしている市区町村役場で取得できます。 相続の手続きにおいては、不動産の名義変更や、住所記載の法定相続情報一覧図を作成するとき等に必要となります。
住民票の除票
亡くなった後、市区町村町役場に「死亡届」を提出することにより、住民登録から外れることになります。
この住民登録から除かれた住民票を「住民票の除票」といい、住民票の除票を印刷した証明書を「住民票の除票の写し」といいます。 住民票の除票は、被相続人の最後の住所地を管轄する、市区町村役場にて取得することができ、交付請求できるのは、原則として相続人となります。
遺言書
被相続人が遺言書を遺している場合、原則として相続手続きは遺言書の内容に沿って進めます。
相続における各手続きには、遺言書の提出を求められることになります。
遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類がありますが、一般的には、自筆証書遺言と公正証書遺言が多くみられます。 相続開始の際に、遺言書がみつかった場合、どのような手続きが必要になるのかご存じですか?
自筆証書遺言
自筆証書遺言が見つかった場合、手続きに遺言書を使うためには、まず、家庭裁判所での「検認」を行わなければなりません。
検認とは、相続人に対し遺言書の存在、内容を知らせ、遺言書の偽造などを防止するための家庭裁判所による作業です。
家庭裁判所による検認は、遺言書の存在、内容を確認するのみであり、遺言書の内容の有効性についての判断はされませんので注意しましょう。
家庭裁判所での検認が完了したら、各種の相続手続きに使用できます。
自筆証書遺言の場合、法務局による遺言書保管制度を利用されていることもあります。 被相続人の住所地を管轄する法務局において保管されているため、管轄法務局への照会をすることで自筆証書遺言の有無を確認することができます。
公正証書遺言
公正証書遺言は、法律文書作成のプロである公証人によって作成されたものであり、手続きにそのまま使用することができる高度な証明力が認められる遺言書です。
自筆証書遺言のような、検認は不要です。
内容を確認し、原則として遺言書の内容に沿った相続手続きを行いましょう。
公正証書遺言は、原本は公証役場で作成より150年間保管されます。
作成後は、公証役場より原本の写しである「謄本」、「正本」の2部が交付され、相続においては、交付された「謄本」もしくは「正本」を使用することで手続きを進めることができます。
遺産分割協議書
被相続人が遺言書を遺さなかった場合、各種の相続手続きには、「遺産分割協議書」が必要になります。なお、相続人が一人の場合や、法定相続分に従った遺産分割をする場合は、遺産分割協議書の作成は不要です。
遺産分割協議書は、相続発生後、相続人全員で被相続人の遺した財産を、「誰がどの割合で」相続するかという話合い(遺産分割協議)を行い、話し合った内容を、全員の合意を証するため、文書にまとめたものです。 相続手続きを行う上で必要になる書類のため、要件に不備のない遺産分割協議書を作成しましょう。
印鑑登録証明書
相続手続きにおいて、遺産分割協議書の作成や、金融機関の解約手続き等には、実印での捺印が必要となります。
捺印した印影が実印であることの証明のため、併せて、印鑑登録証明書を添付する必要があります。
実印を登録していない場合には、相続手続きを始める前に印鑑登録が必要となるので注意が必要です。 印鑑登録証明書は、印鑑登録証を持参のうえ、窓口にて取得するか、コンビニ交付サービスを利用するなどして準備しましょう。
残高証明書
残高証明書とは、金融機関による、特定の日付における預貯金、有価証券、投資信託などの残高を証明する書類です。
相続は、被相続人が亡くなった時点で発生します。
被相続人の死亡日時点での残高証明書を取得することで、相続財産の確認にも繋がるため、取得することをおすすめします。 被相続人が口座を開設している金融機関に連絡を入れ、残高証明書取得の手続きについて確認しましょう。
固定資産評価証明書
相続財産に不動産がある場合、登記名義変更手続きにおいては、不動産の「評価額」が必要になります。
「固定資産税の納税通知書」でも評価額を確認することはできますが、非課税の土地を所有している場合、「固定資産税の納税通知書」には記載されていないこともあります。
非課税の不動産も含め、被相続人の全ての不動産の評価額を確認するためにも、「固定資産評価(額)証明書」を取得することをおすすめします。 評価証明書は、不動産の所在地を管轄する市区町村役場にて取得することができます。
不動産の権利証(登記済証、登記識別情報など)
不動産の権利証(登記済証、登記識別情報など)は、不動産の権利を取得するための登記手続きを行うことで、法務局から交付される証明書です。
相続による不動産名義変更は、所有者の意思に基づく手続きではないため、必ずしも必要になる書類ではありません。
不動産所有者(被相続人)の不動産登記簿上の住所地と、相続開始時の住所地が異なる場合は、提出することで手続きがスムーズになります。
登記識別情報通知とは、平成17年の不動産登記法の改正により、従来の登記済証に代わって交付されるようになった書類です。
権利証がみつからない場合でも、相続手続きは可能です。
不安な場合は、専門家に相談することをおすすめします。 不動産登記簿については、相続手続きを行う上で、所有者の確認、不動産情報の確認などを行うことができますので、取得するとよいでしょう。
あると便利 法定相続情報一覧図
平成29年5月29日より、「法定相続情報制度」が始まりました。
法定相続情報制度とは、法務局に必要書類を提出し、登記官が内容を確認したうえで、相続関係を登記官が証明する制度です。 法定相続情報制度を利用することで、不動産の相続登記、被相続人名義の金融機関手続き、相続税の申告等、各種の相続手続きにおいて、戸籍謄本類一式の提出を省略できます。
法定相続情報一覧図とは
相続手続きでは、一般的に被相続人については生涯分の戸籍謄本等、相続人については現在戸籍謄本等の束を、相続手続きを行う各種窓口に何度も出し直さなければなりません。
法定相続情報証明制度では、法務局(登記所)に必要な戸除籍謄本等を提出し、併せて、相続関係を一覧に表した図(相続関係説明図)を提出することで、登記官がその図に認証文を付した上、その写しを無料で交付してもらえます。
交付される図を、法定相続情報一覧図といいます。 交付された法定相続情報一覧図は、戸籍謄本等の束に代えて、各種の相続手続きで利用することができます。戸除籍謄本等の束を何度も出し直す必要がなくなります。
法定相続情報一覧図の取得方法
市区町村役場で、必要となる戸籍謄本、住民票を収集します。
収集した戸籍謄本等の内容から、相続人を調査し、法定相続人の相続関係を図(表)にまとめます。
まとめた図を、「相続関係説明図」といいます。
相続関係説明図は、被相続人を基準にし、配偶者、第一順位(子)、第二順位(親)、第三順位(兄弟姉妹)、の関係人を線で結んで表した図です。
法定相続情報一覧図は、収集した戸籍謄本等一式と、作成した相続関係説明図を法務局に提出します。
提出後、内容を法務局の登記官が確認し、間違いがなければ、法務局からの認証を受けることができます。 法務局の認証を受けた相続関係説明図を、法定相続情報一覧図をいい、法務局にて発行してもらえる公的な文書となります。発行手数料はかからず、必要な枚数を発行してもらうことができます。
まとめ
相続手続きに必要な各種書類をみてみました。
(身分関係書類)
- 被相続人:一生分の戸籍謄本、住民票の除票(戸籍の附票)
- 相続人:戸籍謄本、住民票(戸籍の附票)
- 相続関係説明図
(手続き上必要な書類)
- 遺言書、もしくは、遺産分割協議書
- 遺産分割協議書と併せて印鑑登録証明書
(財産関係)
- 固定資産評価(額)証明書
- 残高証明書
相続の手続きは、時間と労力を費やせば自分でもできます。
この記事では、一般的な相続手続きで必要となる書類についてまとめました。 これから相続手続きを行う人は、ぜひ参考にしてみてください。