「相続」と聞いて、どんなイメージを持ちますか?
親が亡くなってその財産を子供が引き継ぐ、そんなイメージを持つ人が多いかもしれません。
「親から子へ」それだけではないから、相続手続きは複雑怪奇なんです。
今回は、そんな複雑な相続関係の中でも混乱しやすい「代襲相続」について解説します。 ぜひ最後までお読みください。
代襲相続とは?
代襲相続【だいしゅう-そうぞく】
〔法〕被相続人の子または兄弟姉妹が相続開始以前に死亡その他の事由により相続権を失った場合、その者の子が代わって相続人となること
【広辞苑より】
広辞苑ではこのように説明されています。
民法の規定は以下のとおりです。
(子及びその代襲者等の相続権)
被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
【民法 第887条】
被相続人とは、亡くなった人のことです。
亡くなった人の子供は相続人になります。これは一般的なので想像に難くないですね。
では、被相続人より前に、その子供が亡くなっていた場合はどうでしょう。
相続人である子が既に亡くなっている場合は、その子供(被相続人の孫)が代わって相続人となります。
これが、代襲相続です。
孫も先に亡くなっている場合にはひ孫が、という順で相続人になります。しかし、代襲して相続人となるのは、被相続人から見て直系卑属だけです。
直系卑属とは、子・孫・ひ孫など自分の直系の(血を引く)後の代を指します。 子供が先に死亡する以外にも相続権を失うケースがありますので、次にそれを解説します。
相続権を失うのはどんな場合?
前出の民法891条の規定とは、どんなものでしょうか。
(相続人の欠格事由)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
【民法 第891条】
民法では、「相続人になれない条件」が規定されています。
悪いことをしたら相続人にはなれない、そんな条文です。2時間ドラマで描かれそうな内容が列挙されていますね。
もう一つ、「廃除」という制度があります。
こちらは、被相続人が推定相続人に対し、自らの意思で相続人にさせないようにしておくものです。
推定相続人とは、自分が亡くなった後に相続人になる予定の人を指します。
廃除は家庭裁判所に請求する手続きです。遺言に記載しておくこともできます。遺言の場合は、相続発生後、遺言執行者が家庭裁判所に請求します。
また、廃除の請求は、いつでも取り消すことが可能です。
(推定相続人の廃除)
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
【民法 第892条】
(遺言による推定相続人の廃除)
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
【民法 第893条】
相続人の“欠格事由”と“廃除”は、「悪事をはたらいた人は相続権を失う」という共通点があります。
この二つの制度の相違点は、該当したら自動的に相続人でなくなるのが「欠格事由」なのに対し、被相続人が自分の意思で相続権を失わせるのが「廃除」という点です。
相続人が欠格事由に該当する又は廃除によって相続権を失った場合は、子が先に死亡している場合と同様に、その者の子(又は孫・ひ孫などの直系卑属)が代襲相続人となります。
廃除は、「遺留分を有する」推定相続人に限られます。
遺留分とは、相続人に保障されている最低限の相続分です。これは、遺言によっても侵害することができません。
遺留分は、兄弟姉妹を除く相続人に認められています。つまり、自分の意思で廃除の請求ができる推定相続人は、兄弟姉妹以外となります。
では、兄弟姉妹(又は甥・姪)に財産を渡したくない理由がある人はどうしたら良いのでしょう。
この場合、廃除の請求はできませんから、遺言を作成しておくことをお勧めします。
相続人の範囲はどこまで?
代襲相続の仕組みがわかったところで、基本的な相続人の範囲についてサラッとおさらいしておきます。
相続の基本的な流れについては、別途説明していますのでこちらも併せてお読みください。
相続人の範囲及び順位は以下のとおりです。
(相続に関する胎児の権利能力)
胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
2 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。
【民法 第886条】
(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。
【民法 第889条】
(配偶者の相続権)
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
【民法 第890条】
民法は少しわかりにくい書き方をされていますが、要するに上の図のように相続順位と相続人の範囲が決められているということです。
子供も親も(直系が誰も)いない場合、兄弟姉妹が相続人になりますが、こちらの代襲は子(被相続人の甥、姪)までです。兄弟姉妹は直系ではないため、1代しか代襲しません。
ちなみに、家系図を書いたときに、親子のような縦の繋がりを示す直系に対し、兄弟姉妹を傍系(ぼうけい)と呼びます。傍系は家系図では横の繋がりになります。
また、代襲相続では、複数いる子供のうちの一人が先に亡くなっている場合、その子の代襲相続人(孫)と残りの子が相続人となります。
それに対し、尊属は、父母のどちらかが亡くなっていても、その親(祖父母)が相続人になることはありません。 「代襲」とは、後の世代の人が相続権を引き継ぐことであり、先の世代の人にはありません。
代襲相続人の相続分は?
さて、代襲相続についてだいぶわかってきたところで、次に代襲相続人の相続分について説明します。
代襲相続人が相続するのは、もともと相続人になるはずだった人の相続権です。
もとの相続人の法定相続分が代襲相続人の相続分となり、代襲相続人が複数いる場合は、頭数で均等に割ります。
以下が法定相続分の図解です。
上の図は配偶者がいる場合の割合を示しています。
配偶者がいない場合は、各相続人の頭数で均等に割って法定相続分を計算します。
相続放棄した場合はどうなる?
相続放棄とは、家庭裁判所に「相続を放棄する」旨を申述し受理されることで認められる手続きです。 相続放棄した人は、初めから「相続人にならなかった」ことになります。
(相続の放棄の効力)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
【民法 第939条】
相続人にはならなかった、ということは相続権を得なかったということなので、放棄した人の代襲者は相続権を引き継ぎません。
相続放棄した人の法定相続分はその他の相続人で分配することになります。
相続放棄について詳しく説明していますのでこちらの記事も併せてお読みください。
養子の子は代襲相続人になる?
代襲相続人は、被相続人の直系卑属に限られるという説明をしました。
では、推定相続人である子が、養子の場合はどうなるでしょう。
被相続人の養子の子(孫)は直系卑属になるのでしょうか。
民法には、養子について次のように規定されています。
(縁組による親族関係の発生)
養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。
【民法 第727条】
(嫡出子の身分の取得)
養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。
【民法 第809条】
養子と養親は、縁組の日から、実子と同じ親子関係となります。
嫡出子とは、法律上婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子を指します。
縁組の日より後に出生した子(被相続人の孫)は、被相続人の直系卑属になるため、代襲相続人になります。
反対に、養子縁組の日より前に出生した子は、被相続人の直系卑属とはならないため、代襲相続人にはなりません。 養子縁組の日が基準になるため、戸籍等できちんと確認することが重要です。
よくある質問
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2年前に祖母が亡くなりました(祖父はもっと前に亡くなっています)。相続手続きを済ませる前に母が亡くなりました。祖母の相続権は自分に引き継がれますか?
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祖母→母の順に亡くなっているので、この場合は代襲相続とはなりません。相続手続きを済ませる前に新たな相続が発生した場合は、数次相続(二次相続)となるため、相続人の範囲が変わります。 詳しくは、こちらの記事に書かれていますので、参考にしてください。
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祖父が亡くなった際、父は相続放棄しました。祖父の借金は相続人として自分が返済しなければいけないのでしょうか?
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相続放棄をした場合は、代襲相続はありません。よって、祖父の借金を返済する義務は引き継がれません。
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祖母と父が相次いで亡くなりました。何から手続きをしたらいいのか全然わかりません。
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お亡くなりになった順によって相続人の範囲が異なります。まずは戸籍を収集して相続人を確認しましょう。
時間が取れない、戸籍を集めるのが大変という場合は、専門家への相談をお勧めします。相続手続きは複雑なことも多く誤ると一大事です。専門家と二人三脚で進めてみませんか。
まとめ
代襲相続についてまとめてみました。
ポイントは以下のとおりです。
- 子の代襲者は被相続人の直系卑属に限られる
- 兄弟姉妹の代襲者は一代のみ(被相続人の甥、姪まで)
- 相続放棄した人の子は代襲相続人にならない
- 養子の子は縁組した日によって代襲相続人になる
似て非なる「数次相続」と混同しがちです。
両者の区別は亡くなった順番です。
代襲相続も数次相続も発生すると、手続きの難易度が倍増します。
頭を抱えて悩んでいませんか?
そんな時は、お気軽に相続の専門家へご相談ください。